大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所 平成8年(ワ)4583号 判決 1998年3月25日

反訴原告

山本勝己

ほか二名

反訴被告

桜井新作

主文

一  反訴被告は、反訴原告山本勝己に対し金一一万円、反訴原告大谷剛に対し金一一万円、反訴原告川崎泳一に対し金一五六万六四三五円及び右各金員に対する平成八年七月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  反訴原告らのその余の反訴請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、その一を反訴原告らの負担とし、その余を反訴被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

反訴被告は、反訴原告山本勝己に対し金一七万一一〇八円、反訴原告大谷剛に対し金一七万一一〇八円、反訴原告川崎泳一に対し金三四五万二四二四円及び右各金員に対する平成八年七月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、反訴原告らが自動車で北海道内を観光旅行中、反訴被告運転の普通乗用自動車に追突されたために負傷し、治療費その他の損害を被ったとして、反訴原告らが反訴被告に対し、民法七〇九条に基づき、損害賠償を請求した事件である。

一  争いのない事実等

1  反訴原告山本勝己は、平成八年七月二九日午後三時一五分ころ、反訴原告大谷剛、同川崎泳一が同乗する普通乗用自動車を運転し、北海道静内郡静内町字真歌九二番地先路上において停止信号に従って停止中、反訴被告運転の普通乗用自動車に追突された(争いがない。)。

2  本件事故は、一時停止中の被害車両に加害車両を不注意で衝突させた反訴被告の過失によって生じた(争いがない。)。

3  反訴原告川崎は、工作機械メーカーの株式会社アマダワシノの下請である大谷製作所の経営者であり、反訴原告山本及び同大谷は、同製作所の従業員であり、反訴原告らは、平成八年七月二七日から二泊三日の予定で北海道内を観光旅行中であったが、本件事故により旅行を中断し、静内町内の静仁会静内病院で診察を受けた(乙一四、反訴原告川崎泳一)。

二  争点

本件事故による反訴原告らの傷害の程度及び損害額が争点である。

第三争点に対する判断

一  反訴原告山本勝己の傷害及び損害について

1  証拠(甲三の1、2、六の1、九の1ないし6、一一の8ないし11)によれば、次の事実が認められる。

(一) 反訴原告山本は、本件事故当日、北海道静内町内の静仁会静内病院において診察を受け、頸部の痛みを訴えたが、身体のしびれ、筋力低下、麻痺、知覚障害等の異常は認められなかった。また、頸椎レントゲン線撮影によっても、異常は認められなかった。

同病院の医師は、反訴原告山本の症状を頸椎捻挫とし、約三日間の安静を要し、八月一日治癒見込みとの診断をし、投薬の必要を認めなかった。

(二) 反訴原告山本は、翌七月三〇日に旅行先から帰り、同日、念のため小牧市民病院整形外科において診察を受け、前頸部の痛みと筋肉痛を訴えた。反訴原告山本は、同病院においても、頸椎のレントゲン検査を受けたが、骨傷は認められなかった。

同病院の医師は、反訴原告山本の症状を交通事故後のむち打症の疑いと診断し、反訴原告山本の希望により、鎮痛剤、湿布薬を投与し、症状が続くようであれば、整形外科を受診するようにとの指示を与えたが、反訴原告山本は、その後、医師の診察を受けることはなかった。

2  右によれば、反訴原告山本は、本件事故により頸椎捻挫の傷害を負ったが、右傷害は、本件事故の三日後の平成八年八月一日には治癒したものというべきである。

3  慰謝料、弁護士費用(請求額合計一七万一一〇八円) 一一万〇〇〇〇円

以上の反訴原告山本の傷害の程度、治療の経過のほか、前記のとおり、反訴原告らは本件事故のために観光旅行の最終日の予定を中断せざるを得なかったこと等の事情に照らせば、反訴原告山本の慰謝料の額は一〇万円と認めるのが相当であり、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は一万円と認めるのが相当である。

二  反訴原告大谷剛の傷害及び損害について

1  証拠(甲二の1、2、五の1、八の1ないし6、一一の4ないし7)によれば、次の事実が認められる。

(一) 反訴原告大谷は、本件事故当日、前記静内病院において診察を受け、頸部痛を訴えたが、身体のしびれや筋力低下は認められず、頸椎レントゲン線撮影によっても、異常は認められなかった。

同病院の医師は、反訴原告大谷の症状を頸椎捻挫とし、約三日間の安静を要し八月一日治癒見込みとの診断をし、投薬の必要を認めなかった。

(二) 反訴原告大谷は、翌七月三〇日に旅行先から帰り、同日、念のため小牧市民病院整形外科において診察を受け、前頸部の痛みと筋肉痛を訴えた。反訴原告大谷は、同病院においても頸椎のレントゲン検査を受けたが、骨傷は認められなかった。

同病院の医師は、反訴原告大谷の症状を交通事故後のむち打症の疑いと診断し、本人が投薬を希望しなかったため、右処置をせず、症状が続くようであれば整形外科を受診するようにとの指示を与えたが、反訴原告大谷は、その後、医師の診察を受けることはなかった。

2  右によれば、反訴原告大谷は、本件事故により頸椎捻挫の傷害を負ったが、右傷害は、本件事故の三日後の平成八年八月一日には治癒したものというべきである。

3  慰謝料、弁護士費用(請求額合計一七万一一〇八円) 一一万〇〇〇〇円

以上の反訴原告大谷の傷害の程度、治療の経過のほか、反訴原告大谷も、反訴原告山本と同様、本件事故のために観光旅行の最終日の予定を中断せざるを得なかったこと等の事情に照らせば、反訴原告大谷の慰謝料の額は一〇万円と認めるのが相当であり、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は一万円と認めるのが相当である。

三  反訴原告川崎泳一の傷害及び損害について

1  証拠(甲四の1、2、七の1、2、一〇の1ないし6、一一の12ないし46、乙一ないし七、一二ないし一七、一八の1ないし11、証人鈴木浩之、反訴原告川崎泳一)によれば、次の事実が認められる。

(一) 反訴原告川崎は、本件事故当日、前記静内病院において診察を受け、頸部の痛みを訴えたが、身体のしびれ、筋力低下、麻痺、知覚障害は認められず、レントゲン検査の結果、骨折等の傷害は認められなかったものの、頸椎症性の変化が認められた。

同病院の医師は、反訴原告の症状を頸椎捻挫とし、カラーキーパーによって頸部を固定する処置をし、右傷害は約七日間の安静加療を要し、八月五日治癒見込みとの診断をした。

(二) 反訴原告川崎は、翌七月三〇日に旅行先から帰り、同日、念のため小牧市民病院整形外科において診察を受け、頸部と腰部の痛みを訴えた。反訴原告川崎は、同病院においても頸椎及び腰椎のレントゲン検査を受けたが、骨傷は認められなかったものの、頸椎の第五―第六、第六―第七椎間板の狭小化の変性が疑われた。

同病院の医師は、反訴原告川崎の症状を頸椎捻挫と診断したが、治療としては経過観察のみで足りるとし、また、本人が投薬を希望しなかったため、右処置をしなかった。

(三) 反訴原告川崎は、右の後、平成二年五月から治療を開始していた糖尿病につき、平成八年八月から九月にかけて、八月一日、二一日、二九日、九月一日の各日に小牧市民病院内科において糖尿病の治療を受けたが、その間同病院整形外科において受診することはなかった。

反訴原告川崎は、頸椎捻挫の症状については、同年八月九日からやまげん接骨院において、電気治療、あんま等の施術治療を受けた。

しかし、やまげん治療院における治療の効果が希薄であったため、反訴原告川崎は、同年九月一二日に小牧市民病院整形外科において再度受診し、頸部から両肩の周辺の痛みを訴え、消炎鎮痛剤、筋弛緩剤、胃薬の投与を受け、湿布による保存的治療を受けた。

同日同外科において受けたレントゲン検査では、加齢現象と思われる第四―第五腰椎分離症、頸椎の第三―第四、第五―第六、第六―第七椎間板の狭小化が確認された。右所見は、同年九月一九日に行われたMRI検査によっても確認された。

反訴原告川崎の症状は、その後も軽減せず、同病院の医師は、同年一〇月九日、傷病名に頸部椎間板傷害を追加し、反訴原告川崎は、平成九年八月二一日まで同病院に通院(平成八年九月、三日間、一〇月、三日間、一一月、二日間、一二月、二日間、平成九年一月、三日間、二月、二日間、三月、一日、四月、五日間、五月、一日、六月、なし、七月、一日、八月、一日)した。

反訴原告川崎が同年一月一三日に腰椎について受けたMRI検査では、第四、第五腰椎で第五レベルへの脱出ヘルニアの存在が確認され、また、同年四月一六日に頸部について受けたMRI検査では、C3/4、C4/5に脊髄の軽度圧迫が認められ、高度の変形性脊椎症との診断を受けた。

小牧市民病院整形外科の担当医は、反訴原告川崎には、前記のとおり加齢現象による頸椎の変性があり、これが治療を長引かせたとの判断をしている。

なお、反訴原告川崎は、本件事故前の平成七年一月に小牧市民病院整形外科において右肩関節周囲炎(五十肩)の治療を受けているが、担当医は、右炎症と本件事故後の反訴原告川崎の症状との間の関連性は薄いとの判断をしている。

(四) 反訴原告川崎は、平成二年五月から小牧市民病院内科において糖尿病の治療を開始し、同年七月にはB型C型肝炎が疑われ、平成五年一〇月には糖尿病性末梢神経障害を来たし、その後も、同年一一月には肝硬変、肝癌の疑い、平成六年四月には花粉症、平成七年一一月には感冒、便秘、本件事故後の平成八年一〇月には胃潰瘍の疑い等によって、同内科において受診していた。

反訴原告川崎には、平成八年一〇月九日、同月一六日の整形外科における診察において、両手指末節しびれが認められたが、右症状については、糖尿病による可能性も疑われた。

2  治療費(請求額一二二万一三六〇円) 七二万六四三五円

右1によれば、反訴原告川崎が本件事故後平成九年八月二一日まで静内病院及び小牧市民病院整形外科において受けた治療は、本件事故による傷害の治療のために必要であったものということができるが、反訴原告川崎が右治療の過程で呈した症状の一部については、本件事故による傷害以外の内科的疾患が関与している可能性があり、また、反訴原告川崎の治療が右のとおり長引いたことについては、反訴原告川崎に加齢現象による既往症が存在したことが関係しているものといわなければならない。

そして、前記の反訴原告の症状、治療の経過等に照らせば、反訴原告が小牧市民病院整形外科において要した治療費のうち、四分の三を反訴被告に負担させるのが相当であり、証拠(乙四、一五)によれば、右治療費の合計額(文書料を含む。)は四六万三〇二〇円であることが認められるから、反訴被告が負担すべき金額は三四万七二六五円となる。

また、反訴原告は、平成八年八月九日以降、やまげん接骨院において施術を受けているものであるが、右施術が小牧市民病院整形外科その他の診療機関の医師の指示によるものであることを認めるに足りる証拠はないものの、証拠(証人鈴木浩之、反訴原告川崎)によれば、右施術は、反訴原告川崎が反訴被告側の保険関係者の示唆に基づいて受け始めたものであり、また、反訴原告川崎の症状の軽減のために効果がないとはいえないことが認められるから、右施術に要した費用の二分の一を反訴被告に負担させるのが相当であり、証拠(乙五、一六、一七)によれば、右施術費の合計額は七五万八三四〇円であることが認められるから、反訴被告が負担すべき金額は三七万九一七〇円となる。

3  慰謝料(請求額一五〇万円) 七〇万〇〇〇〇円

反訴原告川崎の前記傷害の程度、治療の経過のほか、反訴原告川崎も、他の反訴原告らと共に、本件事故のために観光旅行の最終日の予定を中断せざるを得なかったこと等の事情に照らせば、反訴原告川崎の慰謝料の額は七〇万円と認めるのが相当である。

4  カメラ代(請求額三一万八六〇〇円) 〇円

反訴原告川崎は、本件事故により持参したカメラが破損し、また、本件事故現場における実況見分中に紛失したとして、その購入費用の賠償を求めるが、右カメラが損傷したことを認めるに足りる証拠はなく、また、右カメラがどのような事情で紛失したかは本件全証拠によっても不明であり、その責を本件事故に帰せしめることはできないから、右賠償の請求は失当である。

5  航空運賃(請求額一五万四六八〇円) 〇円

反訴原告川崎は、北海道旅行に要した航空運賃を本件事故による損害として主張するが、前記のとおり、反訴原告らは、二泊三日の旅行日程のうち、二日間の日程を消化し、本件事故は、最終日の午後三時一五分に発生したものであるから、右航空運賃の出費が本件事故のために無駄になったものということはできず、右運賃の賠償の請求は失当というべきである。

6  反訴被告が、本件事故に関し、一六万円を支払ったことは争いがないが、証拠(乙九ないし一一、反訴原告川崎)及び弁論の全趣旨によれば、右金員は、本件事故のために、反訴原告らが新たにレンタカーを調達し、予定外のホテルに宿泊するなどしたことによる出費に対する填補として支払われたことが認められるから、これを反訴被告が賠償すべき金額から控除すべきではない。

7  弁護士費用(請求額二五万七七八四円) 一四万〇〇〇〇円

本件事故と相当因果関係のある反訴原告川崎の弁護士費用相当の損害額は、一四万円と認めるのが相当である。

(裁判官 大谷禎男)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例